伝説の起業家、陶华碧(たおふぁび)


 老干妈(らおがんまー)という食べるラー油をご存知だろうか。2019年の売上が50億元(754億円)を超えた中国の人気商品だ。価格は9元(150円)で、安くて美味しい中国の定番ブランドだ。

 そんな老干妈を作った女性の人生に脚光が当たっている。彼女は一度も学校に行ったことがなく、自分の名前しか書けないシングルマザーである。


 彼女の名前は陶华碧(たおふぁび)。1947年贵州省(きしゅうしょう)の生まれだ。


 昔の中国、特に田舎では、男の子が大事にされ、女の子にはなるべくお金かけず、すぐに働かせる習慣があった。彼女も例外ではなく、学校には行かせてもらえず、幼い頃から家の農業の手伝いをさせられた。


 年頃になると結婚し、二人の子供に恵まれたが、28歳の時に夫を病気で亡くした。食べるために田舎から離れ、都会の工事現場で必死に働いた。働き者だった彼女はそこで評価されたものの、過労と栄養不足で42歳の時に地元に戻ってきた。


 そして戻ってきた1989年の夏、道端からコンクリートブロックを拾い、自力で10平米弱の小さな冷麺店を開いた。名前は「お得レストラン」。安くて量が多く、特製のラー油を混ぜて食べる店だ。「この店は最高!」という評判がだんだん広まり、客が増えていった。食べたいけれどお金がない学生には、無料で振る舞ったりした。そんなこともあり学生達からは「老干妈(らおがんまー)(義理のお母さん)」と呼ばれるようになった。これが食べるラー油「老干妈」のはじまりである。


 そんなお店で徐々にラー油の人気が高まり、わざわざラー油だけを買いに来る客まで出てきた。また、ラー油が切れている日に来た客が、ラー油がないことを知って冷麺の注文をキャンセルしたりした。


 そんなラー油人気に気がついた陶华碧(たおふぁび)は、思い切ってラー油製造に特化することにした。40名の作業員を雇いラー油工場を開いたのだ。そして彼女はレストランや社員食堂に営業に行った。ラー油の美味しさと、彼女のビジネスに対する誠実な姿勢が話題になり、売上は伸びていった。

 

 2012年には、年間の売上が40億元(603億円)に達した。税金を年に5.1億元(77億円)納めるまでになった。2015年、政府は3年間に18億元(271億円)を収めた陶华碧に対して、「8888」のナンバープレートをプレゼントした。8はお金や金運を表すラッキーナンバーである。(写真は「8888」ナンバーを付けた陶华碧氏のロールスロイス)



 2015年に陶华碧は老干妈のブランドを二人の息子に譲った。ところが陶华碧が離れてしばらく経つと、売上が落ち、悪い評判が聞かれるようになった。「味が変わった」「辛さが足りない」と言った悪評だ。実は二人の息子は、コスト削減のために、贵州(きちゅう)産の唐辛子の使用をやめ、安い唐辛子に変えていたのだ。


 2018年に71歳の陶华碧は復帰し、原材料の唐辛子を元に戻し、自らマスコミに出て自社の宣伝活動を行った。その結果、信頼が回復され、売上も50億元を超えるようになった。


 そして73歳になった今も、現場で働いている。陶华碧は社員に対して、まるで家族のように接する。出張する社員に茹で卵を作って駅まで送ったり、お金が無く食事や住む場所に困っていると聞くと住居や食事を提供したり、辞めた社員が戻りたければいつでも受け入れる制度を作ったりだ。工場のルールも至って簡単「サボらないこと」だ。


 老干妈(らおがんまー)は美味しいので人気があるが、それと同じくらい陶华碧(たおふぁび)も人気がある。人々が彼女の生き方に共感し、彼女を応援している。


 素朴な彼女の人柄も有名だ。「マスコミには出たがらない」「銀行からはお金を借りない」「上場はしない」といった感じだ。ある時マスコミが「なぜ老干妈は国内では9元なのに、海外では8ドルもするのか?」と尋ねたことがあるが、彼女は「私は中国人だから、中国人からは多く取らない。でも外国人からは多く取る。」と答えた。また酒にお金を使ってしまう社員に対し、「あなたの給料を預かってあげる。そして弟を学校に行かせてください。私のように読み書きができない人間にならないように。」と言ったという。


 老干妈(らおがんまー)は海外にも輸出され人気商品になっている。日本のスーパーでも売られているらしいので、見かけたら一度試してみてはいかがだろうか。