• 茶々

在日中国人留学生の変化を追う

 ここ20年、日本における中国人留学生の生活は大きく変化した。背景には中国国内における経済成長、一人っ子政策、デジタル技術の進化が挙げられる。

 今回、筆者は、中国人の日本留学経験者に話を聴くことで、この変化を捉えてみた。話を聴いた留学経験者は、それぞれ2000年代初頭、2010年前後、2017年以降に留学生だった人達である。


 

時代ごとに異なる留学生の特徴


 以下は、筆者が、各時代の留学経験者からヒアリングしたものからまとめた2000年以降の中国在日留学生の変化である。

 中国の経済力が上昇するに伴い、苦学生 → 勤労学生 → 勤勉な学生という順に、留学生の質が変化しきてきている。


2000年代初頭 苦学生

 

 この頃、日本と中国の経済格差はまだ大きく、首都北京でも平均月収はわずか1,100元(約2万円)であった。この頃の日本への渡航目的は出稼ぎが主だった。

 最初に日本に来る時の費用は、親元からサポートしてもらうか、働きながら自分で資金を作るというものだった。まだ一人っ子政策が行き届いていなかったこの時代には、留学しようと思っても他の兄弟がいるので、なかなか1人に留学費用を捻出する事が難しかった。もし留学できたとしても、日本での学費や生活費は、本人がアルバイトで稼がなければいけなかった。


2010年前後 勤労学生

 

 この時代、1980年から始まった一人っ子政策の影響で、一人っ子の家庭が増えた。また中国の経済力が上昇した事により、北京の平均月収は4,000元(約7万円)に達していた。このため一般家庭でも留学の費用を捻出する事が可能になった。しかし、まだ日本と中国の間には物価差があり、学費は親元に負担してもらっても、日本での生活費はアルバイトで稼ぐ必要があった。だが留学の目的は変化し、稼ぐ事ではなく、今後のキャリアアップが目的になった。


2017年以降 勤勉な学生


 この時期は、中国のGDPが急激に伸び、世界第二位の経済力に成長した時期である。この頃になると、北京の平均月収は10,000元(約18万円)になった。そして、日本の大学は欧米に比べて学費が安く、治安も良いという事で、ちょうど良い留学先として日本が捉えられる様になった。

 留学生は親元からの援助によりアルバイトする必要性は薄れた。また、日本に限らず、2015年以降、中国の海外留学生の帰国率は上昇した。帰国率は50%を超えており、現在でもその率は上昇している。つまり留学は知識を身に付けたり、海外での生活習慣を身に付ける場であり、帰国後にキャリアに活かすという事が主目的となった。

 余談であるが、最近では親元の経済力が増えた事もあり、子供が留学している間に日本のマンションを子供に購入させて居住させ、子供の帰国後に投資物件として運用する人も増えている。

 

在日中国人は中国のECや日本の中華物産店を使う


 次にコロナ禍以降の変化をまとめる。

 数年前までは中国から日本のものを買いたいというニーズが強かったため、越境ECや日本で購買代行してもらうサービスが盛んであった。

 しかし近年中国製品は急速に品質を上げ、海外製品に劣らない、もしくは海外製品を凌駕するものが出てきている。例えばドローンで有名なDJIは世界的なブランドになっている。

 

 また、在日中国人がSNSやECを通じて中国のものを購入する事が増えてきた。中国におけるライブ販売市場の広がりやインフルエンサーの広がりの中で、日本国内から中国のものを買う事は非常に容易になった。余談だが、製造のグローバル化が進んでいるので、Amazon Market Placeで買うよりも、中国のECで買った方が安いものも多く出てきた。

 もう一つは、日本における中華物産店の急増である。コロナで帰国が困難になった在日中国人は、中華食材、調味料を日本で買わなければならない。最近、西葛西、三河島、蒲田、高円寺、浅草橋といった少し周辺部で中華物産店が増えている。一昔前までは、新宿、池袋、上野といった大都市にしかなかったのに対してだ。


新しい中華料理 = 郷土料理



 コロナ禍で、外食にも大きな変化が起きている。今まで日本人にとって中華料理というと、四川料理、広東料理など地方料理名が主だった。しかし、今は「麻辣湯(マーラータン)」、「蘭州(ランチョン)ラーメン」、「鉄鍋炖(テッカトン)」、「串火鍋(チョワンホワゴウ)」のように料理名が店舗名となっている店が増えている。いずれも日本人に人気がある。


 そういった店舗は、中国国内のフランチャイズ経営の場合もあるが、日本に来た留学生が開いた店も多い。それらの特徴は、中国語メニュー、中国語での接客といった中国式の接客である。



QR決済が進展し元を円に換える手間が無くなった


 コロナ禍で決済環境も変化している。

 コロナ以前から、中国人訪日観光客のために、銀聯カードやQRコード決済のAlipay、WechatPayなどが多くの小売店に導入されていた。 

 しかし、2019年以降、日本でもキャッシュレス決済が浸透し、統一QRコードサービスも浸透していった。統一QRコードサービスには、PayPayやLINEPay、メルペイ以外に、Alipay、WechatPayなどの中国サービスも含まれる。留学生にとって、本国から元で送金されてきたお金は、そのままキャッシュレスで決済できる利便性がある。

 

 この様にたった20年でも大きな変化がある。日本は中国にとって稼ぐ場所から異文化を吸収する場所に変化した。また、中国の方がQRコード決済やライブ販売などデジタル化が進む局面も出てきている。今はコロナで国境封鎖に近い状況になっているが、コロナが収束し、再び人が動き出した後、また新しい変化が生まれるだろう。